カエルの王様
あるところに一人の王様がおりました。 この王様には幾人もの美しいお姫さまがおりましたが、中でも末娘の姫君の美しさといったら太陽でさえその顔を照らすたび驚いてしまうほどのものです。 お姫さまは森の泉のほとりで、ひとり金の鞠を高く投げたり受け止めたりして遊ぶのが好きでした。 ある日のこと。 お姫さまがいつものように金の鞠を投げ上げて遊んでいると、うっかりと受け損なって鞠を泉の中に落としてしまいました。 泉はとても深く、鞠の沈んだ水底は少しも見えません。 大切な金の鞠を失くしてしまったお姫さまは悲しくなって、泉のそばにしゃがみこんで泣きました。 そうしてお姫さまが泣いていると、泉の中から呼びかける声があります。 「どうしたんですかお姫さま。そんなに泣いていると石たちまで心配して泣いてしまいますよ。」 見ると、一匹の気味の悪いカエルが泉の中から顔を出していました。 「カエルさん。私ね、大切な金の鞠を泉の中に落としてしまって、泣いているのよ。」 「もしも私がその鞠を取ってきてあげたら、貴女は私に何か下さいますか?」 カエルが言うので、姫は頷いて答えます。 「貴方の欲しいものは何だってあげるわ。私の着物だって真珠だって宝石だって。この金の冠だってあげる。」 「そんなものは何もいりません。それよりも私を貴女のお友達にして下さい。貴女の食卓に並んで座らせて、貴女の金のお皿で食べ貴女の可愛い杯で飲ませて下さい。そうして夜になったら、貴女の小さなベットで寝かせて下さい。もしこれだけの事を約束して下さるのなら、泉に潜って金の鞠を取ってきましょう。」 「ええいいわ!鞠を取ってきてくれるなら、何でも約束してあげる。」 お姫さまは約束しましたが、心の中では (おバカさんのカエルね。人間のお友達になろうなんてとんでもないわ) とひどい事を考えていました。 そんな事も知らず、カエルはすぐに泉に潜ると約束通りお姫様の金の鞠を持って浮かび上がってきます。 お姫さまは喜んで、金の鞠を胸に抱くとそのままお城へ駈け戻ってしまいました。 「待って下さいお姫さま!私はそんなに早く走れません」 カエルが騒ぎましたが、お姫さまは後ろを振り返りもせず走ります。 そうしてカエルとの約束なんて、すっかり忘れてしまったのでした。 それからしばらくして、お姫さまが王様や姉のお姫さまたちと食事をしていると、ぺたりぺたりと大理石の階段を上ってくる者がありました。 足音は一番上まで上がりきると、とんとんと戸を叩きながら言いました。 「お姫さま、一番下のお姫さま。約束をお忘れですか?早くここを開けて下さい。」 それを聞いたお姫さまは真っ青になって、胸は不安でどきどきと早く拍ち始めます。 「どうしたね姫。外にいるのは誰だい?恐ろしい大男でもやって来てお前をさらって行こうとでもいうのかね。」 王様が笑って訊ねるとお姫さまは慌てて、泉に金の鞠を落としてしまいカエルに拾ってもらった事を話ました。 「だからお友達にしてあげるって約束してしまったの。だってカエルが水の中から出てこられるだなんて思わなかったんですもの。」 「一度した約束はきちんと守らなくてはいけないよ。さあ早く戸を開けておあげ。」 王様に言われ、お姫さまは席を立って戸を開けました。 するとカエルが飛び込んできて、お姫さまの足元にぴったりとくっつくと言いました。 「さあ約束ですお姫さま。私を食卓に上げて下さい。」 お姫さまがぐずぐずとしていると、王様がまたそうしてあげなさいとたしなめます。 仕方なくお姫さまがカエルを食卓の上に乗せると、 「二人で一緒に食べられるように、そのお皿をもっとこちらへ寄せて下さい。」 カエルは図々しく言いました。 お姫さまは嫌で嫌で仕方ありませんでしたが、カエルはとても美味しそうに皿の上のごちそうを食べます。 そうして食べるだけ食べると、 「ああお腹がいっぱいになってくだびれました。さあ私を貴女の寝室に連れて行って、二人で眠れるように絹のベットを整えて下さい。」 と言うものですから、お姫さまはとうとう泣き出してしまいました。 けれども王様は怒って言いました。 「困っている時に助けてくれた者に、後になって知らん顔をするのはいけない事だ。」 お姫さまは嫌々二本の指でカエルを摘むと、寝室へ連れて行って部屋の隅に置きました。 それから一人でベットに横になると、またもやカエルが傍へ寄って来て言います。 「私も貴女のようにゆっくりくつろいで眠りたいです。早く寝台に上げて下さい。そうして下さらないと、お父様に言いつけますよ。」 それを聞くとお姫さまはついにすっかり怒ってしまって、カエルを乱暴に掴み上げるとありったけの力を込めて壁に投げつけました。 「本当にいやらしいカエルね。これで楽に寝れるわよ!」 しかしどうでしょう。 壁にぶつかったカエルは床に落ちた時にはもうカエルではなくなって、優しい瞳をした美しい王子様に変っていたのです。 王子様は悪い魔法使いに呪いをかけられカエルの姿にされていたのでした。 「あの泉から助け出してくれたのは君だけだったんだ。おかげで呪いが解けた。有難う。」 王様のはからいで王子様はお姫さまのお婿さんになり、末永く幸せに暮らしたという事です。 |
グリム童話の中でもメジャーな部類ですが、もしかしてタイトルと内容が一致しない作品だったりしませんか。 知らないなーと思ったら話聞いてみてあーアレか!みたいな。 ゲンミツに言えばコレ『カエルの王様』じゃなくて『カエルの王子様』ですよねぇ…? そしてアレンジされた絵本とかではカエルが気持ち悪くてグスングスンしてる姫が微笑ましいお話ですが、 原典で読んでみると姫、黒っ!!(笑)なんかスゴイ事考えてるし カエル王子の方も微妙にムカつく奴ですがね… それにしてもお父ちゃんの王様、容赦ないよね…?(笑) 全体的にありがちなストーリーなようなちぐはぐしたような不思議な印象のこの作品。 別に姫、泉からカエル助けてないし。 壁に叩き付けられて解ける呪いって何だって感じだし。 もしかしていくつかのお話ツギハギして出来てるんじゃなかろうかと思ったりもいたします。 ついでにこのお話には、王子様が呪いにかけられた時、悲しみのあまり胸が張り裂けてしまわないように 自分の胸に鉄の輪を付けたという忠義者の家来が迎えに来て二人を王子様の国に連れて帰りましたとさ。 なんて後日談が付くヴァージョンもあります。副題『鉄のハインリヒ』 コイツが付くとますますもってツギハギな印象に(笑) 因みに某残グリに王子様は悪行乱痴気三昧で魔女に封印されていて姫を利用して復活〜 てお話があります。「コレがホントに本当の原典なんじゃ…!」てくらい完璧なアレンジで個人的には感動でした。 因みに王子様はハインリヒとデキていた(笑) |
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