ラプンツェル

ある所に長らく出来なかった子供をようやく授かったばかりの、それはそれは仲睦まじい夫婦がありました。
ところでこの家の裏には広い畑があり、そこには美しいラプンツェル(サラダ菜みたいなレタス)が青々と育っています。
おかみさんは、そのラプンツェルが食べたくて仕方ありませんでした。
けれどもその畑は、恐ろしい魔法使いのお婆さんのものなのです。
しかし、食べれないとなると尚更食べたくなるのが人の性。
おかみさんはどうしてもラプンツェルが食べたいと旦那さんに言いました。
旦那さんは、おかみさんが愛しくて愛しくて仕方ありませんでしたので、夕闇にまぎれ裏の畑へ入りラプンツェルをひとつ盗んで来しまったのです。
おかみさんはたいそう喜んで、ラプンツェルをサラダにして食べました。
その美味しい事といったら…おかみさんは前の三倍、あのラプンツェルが食べたくなってしまいました。
困った嫁さんですが、妊婦とはえてしてこういうものです。
仕方なく、旦那さんはもう一度裏の畑へ行きました。
しかし今度は、恐ろしい形相をした魔法使いのお婆さんが待ち受けていたのです。
「わしの畑からラプンツェルを盗んだのはお前だね。許しゃしないよ。」
旦那さんは一生懸命に謝りながら、ラプンツェルを盗んだ理由を話しました。
すると魔法使いのお婆さんは、急に柔和な顔になってそれならおかみさんの赤ん坊が生まれるまで好きなだけ取っていくといいと言うのです。
「しかし条件があるよ。」
それは魔女の常套交換条件…生まれた赤ん坊を寄越せというものでした。

月日が満ち、やがて夫婦に女の子が生まれると、魔法使いのお婆さんは約束通り赤ん坊を連れて行ったのです。
連れ帰った娘はラプンツェルと名付け、お日様の下大切に育てました。
けれどもラプンツェルが美しい娘へと成長すると、森の中の塔に閉じ込めてしまったのです。
その塔には階段もなければ入り口もなく、ただずっと高い所に小窓がひとつあるきりでした。
そして魔法使いのお婆さんが塔の中へ入る時には、塔の下に立ってこう呼びます。
『ラプンツェル ラプンツェル お前の髪をたらしておくれ』
するとラプンツェルは長く伸ばした美しい髪を窓からたらし、魔法使いのお婆さんはそれにつかまって塔を登っていくのでした。

ある日の事、塔の下を通りかかったこの国の王子が、塔の上から聞こえてくる美しい歌声に足を止めました。
見上げると、塔のてっぺん小さな窓から顔を覗かせた美しい乙女。
王子は彼女に一目逢いたいと、塔の入り口を探しましたが見つかりません。
それでも諦めきれない王子はラプンツェルの歌声を聴く為に毎日毎日塔の下へ通って来ました。
そしてある時、魔法使いのお婆さんが塔に向かい呼びかけるのを見たのです。
『ラプンツェル ラプンツェル お前の髪をたらしておくれ』
王子は早速魔法使いのお婆さんの真似をして、塔の上に向かって呼びかけてみました。
それからやっぱり魔法使いのお婆さんがした通りに、下ろされた美しい髪を登って行きます。
塔を登ってきた見た事もない男性に、ラプンツェルはたいそう驚きました。
けれども王子はとても優しくラプンツェルに話し掛けましたので、ふたりはたちまち恋に落ちたのです。
そうして王子は毎夜(昼間は魔法使いのお婆さんが来るからです)ラプンツェルの元にやって来るようになりました
ところがある時、ラプンツェルは魔法使いのお婆さんに向かって何気なくこんな事を言ってしまったのです。
「ねぇお婆さんどうしてかしら、最近お洋服がきついの。」
それを聞いたお婆さんは烈火のごとく怒り狂いました。
「なんてふしだらな!私を騙して、そんな娘に育てた覚えはないよ!!」
そうして長いラプンツェルの髪をひとまとめに引き掴み、根本からばっさりと切り取ると彼女を荒野に追い払ってしまったのでした。
夕刻になり、何も知らない王子がいつものようにラプンツェルに逢いにやって来ると、魔法使いのお婆さんは切り取ったラプンツェルの髪をたらしてやりました。
しかし王子が塔を登ってみると、そこに愛しいラプンツェツの姿はなくただ恐ろしい形相をしたお婆さんがいるきりです。
「お前のラプンツェルはもういないよ。お前はもう二度とあれの顔を見ることは出来ないのさ。」
王子は絶望のあまり塔から身を投げてしまいました。
幸運な事に命は助かりましたが、落ちた所に生えていたイバラに眼をつかれ王子の両の眼は潰れてしまったのです。
王子はラプンツェルを失った悲しみに、ただ嘆きながらあちこちを彷徨いました。
そうして何年もして―…とうとうラプンツェルが追い立てられた荒野へと辿り着いたのです。
そこではラプンツェルと彼女の生んだ双子の兄妹が辛い、惨めな暮らしをしておりました。
ラプンツェルは盲目になった愛しい王子の姿に気付いて、思わず駆け寄ると王子にしがみついて泣きました。
落ちたラプンツェルの涙がふた雫、王子の眼を濡らすと、なんと王子の眼は元のように見えるようになったのです。
王子はラプンツェルと子供たちを連れ、国に帰ると末永く幸せに暮らしたということです。




この童話はそこはかとなくエロティックなロマンチック…と申しましょうか。
塔の中で世間から隔絶された乙女が夜這いに来た男性と密通、というとミもフタもなかったり激しく萌えたり(笑)
作中、この魔女がラプンツェルを塔に閉じこめたその理由は語られないままに終わります。
別に塔の上で唄わせて寄って来る男を取って喰ってたワケでもなし。
継子とはいえたいそう可愛がって育てた(っぽい)ラプンツェルに、悪いムシがつかないように…ってコトなんでしょうなぁ…?
因みにラプンツェルが王子とデキちゃってるのがバレてしまうあの台詞。
「洋服がきついの」はなんとも無知故なダイレクトさで個人的には大好きなのですが…
「ふしだらな!」と当時のPTAが猛反発。
グリム第二版より「お婆さんよりも王子様の方が重たいの」などというあったま悪そうな台詞に置き換えられてしまいました…というのはちょっと有名なお話ですね(笑)
そういえば王子が夜な夜な訪れる理由も「昼間はお婆さんがいるから」なんて言い訳がましく補足されております。
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